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食事中の口腔内
[公開日:2019/10/30 /最終更新日: 2019/10/30 ]どうして、人は咀嚼(そしゃく:噛むこと)をするのでしょうか?飲み込むため、消化のため、味わうため、いずれも正解です。咀嚼が困難になってきた場合は、歯の治療をするか、食事の形を食べやすく工夫する必要が出てきます。食事を最大限に楽しむためにも、咀嚼機能は非常に重要です。
DOCTOR’S PROFILE
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東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯学専攻
老化制御講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野講師・教授
やまぐち こうへい
山口 浩平先生
とはら はるか
戸原 玄先生
咀嚼運動の複雑さ
咀嚼とは
咀嚼とは、食物を噛み砕くことです。
どうして、人は咀嚼をするのでしょうか?飲み込むため、消化のため、味わうため、いずれも正解です。
例えばですが、全く歯が無かったとしましょう。すると、大抵の場合は、ステーキやサラダが食べづらくなります。普通の米も硬いと感じるでしょう。その場合は、歯の治療をするか、食事の形を食べやすく工夫する必要が出てきます。
医療や介護の現場では、実は同じ料理であっても、ペースト状にしたもの、細かく刻んだもの、軟らかく調理したもの等、いくつかの食形態を提供しています。歯が全く無い等の理由で咀嚼が困難な方には、ペースト食が提供されます。
しかし、ペースト状にすると原材料が何であったかもさっぱりわかりませんし、水を加えてミキサーにかけるので味もぼんやりしてしまいます。
食事を最大限に楽しむためにも、咀嚼機能は非常に重要です。
歯さえあれば咀嚼できる?
歯が無ければ、上手く噛めない。これは想像に難くないと思います。
それでは、歯さえあれば、人は問題なく咀嚼ができるのでしょうか?
例えば、舌のがんになって手術をした場合、舌の腫瘍部を切除することになります。もちろん切除する範囲によるのですが、しっかりと咀嚼できるようにするためには術後のリハビリテーションが必要になりますし、場合によっては食べやすい食形態に工夫する必要も出てきます。
なぜでしょうか。
実は咀嚼には歯と同じくらい、舌や頬、噛む筋肉が重要であるからです。
咀嚼中の口腔内
咀嚼というのは大まかにいえば、歯とその周りの筋肉による餅つきみたいなものなのです。
噛み合う歯同士が杵と臼で、舌や頬が合いの手を担います。
歯には咬合(こうごう)面というすりつぶす専用の面がありますが、食べ物が咬合面に乗っている状態で噛んで初めて食べ物が砕けます。
しかしながら当然、咀嚼中に食べ物は咬合面からこぼれてしまいます。
そこで餅つきの合いの手のように食べ物を再び咬合面に乗せる役割を担うのが、舌と頬です。
そうすることで、食べ物は常に咬合面に乗るようになっており、歯同士で細かくすりつぶされるのです。
歯が無い場合の咀嚼
人は歯が全く無ければ、基本的には舌と上顎で食物を押しつぶすようにして飲み込みやすい形にします。これはちょうど、歯が生えそろう前の子供の口の動きに近いです。
うまく押しつぶされない状態で丸呑みしてしまうと、窒息のリスクが増します。
歯があっても無くても、舌が非常に重要な機能を担っているのです。