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摂食嚥下における口腔期と口腔ケアの関係性

[公開日:2021/10/29 /最終更新日: 2021/10/29 ]

日本の人口の高齢化に伴い、誤嚥性肺炎を罹患する患者も近年増加傾向にあります。私たち言語聴覚士は、摂食嚥下機能の評価や訓練を実施することで、患者様の摂食嚥下機能低下を防ぎ、誤嚥性肺炎の予防に日々尽力しています。特に、現在の機能を見極めて誤嚥リスクを判断する「評価」の段階はとても重要であり、様々な視点で患者様を観察します。多くの言語聴覚士は、この評価の際に「嚥下の5期」を意識しており、患者が食物を口に取り込む前から飲み込みが終わるまでを段階別に分けて考えています。今回はこの5期の中で、食塊形成された口腔内の食物を咽頭まで移送する「口腔期」と口腔ケアの関係性について説明します。

SPEECH-LANGUAGE-HEARING THERAPIST’S PROFILE

摂食嚥下における口腔期と口腔ケアの関係性

大阪赤十字病院 リハビリテーション科

言語聴覚士

たかはし こうへい

髙橋 浩平先生

摂食嚥下における口腔期と口腔ケアの関係性

口腔期における舌運動の重要性

口腔期とは

摂食嚥下における口腔期とは、咀嚼しまとめられた食塊を、主に舌を用いて咽頭へと移送する段階を指します。この次の段階で嚥下の核となる飲み込み、いわゆる”ごっくん”が起こるため、口腔期でのスムーズな送り込みは摂食嚥下の一連の流れにおいて非常に重要な部分であるといえます。
口腔期において一番重要な働き手は舌です。舌は形を変えたり位置を変えたりするための様々な筋肉を要しており、それらが複雑に機能することで食塊を咽頭まで送り込んでいます。しかし、加齢に伴う筋力低下、脳卒中の後遺症による麻痺、口腔がんなどによる器質的異常など、様々な要因で舌運動に異常をきたし、口腔期の機能低下が起こります。安全に食事を続けるためには、舌運動の異常がないかの観察と機能を維持するためのトレーニングを日常的に行なっていくことが重要です。
口腔ケアは、口腔期における舌運動をはじめとする送りこみ動作の異常の発見に重要な役割を果たしてくれます。また、口腔ケアと一緒に簡単な舌の運動を実施することで筋力の維持・向上に働きかけることもでき、近年注目されているオーラルフレイル対策にも繋がると思います。

口腔ケアに舌のアセスメントとトレーニングを取り入れましょう

口腔ケアは口腔内の状態を詳しく観察できる場面ですが、「口腔ケア=歯を磨く」というイメージが強く、舌の汚染や状態観察に意識を向けられていない医療者も少なくありません。食事の摂取状況に関わらず、口腔内の汚れは歯や歯茎だけでなく舌にも蓄積します。口腔ケアの際は歯を磨くだけでなく、舌の清掃も合わせて行うことが必要不可欠です。しかし、舌は味覚を感じる細胞が多く存在し、また、乾燥しやすいことから出血のリスクが高い場所でもありますので、清掃の際は口腔ケアスポンジや専用の舌ブラシなどを用いてやさしくケアを行うよう心掛けてください。
また、舌の清掃に合わせて舌の前後左右運動と上下運動を行ってもらい、舌運動に異常がないかを日常的にチェックするようにしましょう。前後運動では舌を大きく前に突出する・のどの奥に触れるように後ろにひく、左右運動では両口角に舌の先端が触れる、上下運動では開口した状態で上下の唇に舌で触れる。これらの方法で各方向への舌運動を観察し異常がないかを確認しましょう。

近年は食後だけでなく食前に口腔ケアを実施するケースも増えており、前述した各方向への舌運動をトレーニング目的で行うことも効果的です。例えばそれぞれ5-10回程度実施すれば、食前の準備運動になり食事の際の口腔期をスムーズに行う手助けになります。ただし、食前のトレーニングは無理をすると体力を消耗してしまい、かえって安全に食事ができなくなるなどの問題が生じることもあります。回数や頻度は医師や歯科医師など専門家に相談しながら無理のない範囲で行うようにしてください。
普段の口腔ケアから舌を注意して観察することで、口腔期の異常にいち早く気づき、楽しく安全に食事を続けていく手助けになると思います。

 

★髙橋先生が携わる摂食嚥下障害予防普及団体SMAが運営する「嚥下チェッカー」はコチラ

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