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食べる楽しさや驚きを大事に、おもてなしの食支援

[公開日:2023/1/30 /最終更新日: 2023年1月30日 ]

摂食嚥下障害への対応策として、
嚥下調整食がありますが、最近様々な問題が
指摘され始めています。
今回は嚥下調整食の問題点や、摂食嚥下障害の方への
食の楽しさの提供事例などをお話します。

DOCTOR’S PROFILE

食べる楽しさや驚きを大事に、おもてなしの食支援

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯学専攻
老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野

講師・教授(診療科長)

やまぐち こうへい

山口 浩平先生

とはら はるか

戸原 玄先生

食べる楽しさや驚きを大事に、おもてなしの食支援

食べる喜びを取り残さないように

摂食嚥下障害で、食べる楽しみと選択肢が損なわれる

加齢や脳卒中などの疾患により、飲み込みづらくなった、むせるようになったという食べる障害を“摂食嚥下障害”と呼びます。噛んだり、飲んだりする障害である摂食嚥下障害への対応策の一つに、嚥下調整食があります。嚥下調整食とは食べやすくするために、柔らかくしたり、きざんだり、ペーストにした食事のことです。嚥下調整食は食べやすいので良いのではないかと思われるかもしれませんが、最近では、食欲の低下、外出頻度の減少、低栄養やサルコペニアとの関連など、さまざまな問題点が指摘され始めています。
では、どうしてこのような問題が生じるのでしょうか? 一つには、その味と見た目があるでしょう。細かく刻めば元々の素材はわからなくなりますし、水分と混ぜてミキサーにかければ味もぼんやりとして、栄養も薄まってしまいます。障害の有無に関わらず、美味しいものを食べたいという本質は変わらないので、嚥下調整食しか食べられないという状況は食べる楽しさを大きく損ねてしまうのです。

摂食嚥下障害の有無に関わらず、食べる楽しみを

新横浜に、摂食嚥下障害の有無に関わらず食べられるフレンチフルコースを提供するレストラン「Maison Hanzoya」があります。
本レストランの加藤英二シェフは、摂食嚥下障害の有無に関わらず、誰にでも食べやすいフレンチ料理を、フランス語で「優しい」という意味の「スラージュ」と名づけました。スラージュはいわゆる嚥下調整食とは違って、見た目も味もまさにフレンチフルコースそのものになっています。フランス料理はもともとピュレ、ジュレ、ムースなど柔らかい食感の調理法が多く、摂食嚥下障害の方にも対応しやすいと言えます。
私は加藤シェフと共に3Dフードプリンターを用いて、摂食嚥下障害の方でも食べられるフレンチフルコースを新たに開発し、介護施設の利用者さん向けの食事会を開きました。
普段の食事は常食からペースト食までという多様な摂食嚥下機能の方々がご参加されましたが、皆さんに同じコースを召し上がっていただけました。「わぁ、きれい」や「おいしい」など感嘆の声をあげられる方もおられて、みんなが笑顔で食事をされていました。その空間は、まさに食のダイバーシティが実現していたように思います。
 
摂食嚥下関連医療資源マップは、必要とされる方々のために摂食嚥下障害に関わる病院やクリニックの情報をまとめたサイトになります。47都道府県いずれでも、ご自宅の近くの摂食嚥下障害に対応可能な医療資源を見つけることができます。
クリニックや病院だけではなく、Hanzoyaのように摂食嚥下障害の方にも対応可能なレストランも掲載されています。

料理だけではなく、食環境も

食べる楽しみは料理だけではなく、食器や盛り付け、BGM、照明、テーブルクロスなど食環境からも大きく影響されます。たとえば、食器と料理の色は赤と白などコントラストがある方が食が進みます。認知症高齢者を対象とした研究では、ソースの有無でバームクーヘンの摂取量が大きく変化しました。チョコレートソースをかけるだけで、より多くの量を食べるのです。少しでも美味しく食べられるように、そんなささやかなおもてなしの心が摂食嚥下障害の方の食べる楽しみを支えてくれるのです。

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