-
ユマニチュードケアと口腔ケアへの活用方法(2)
[公開日:2024/7/30 /最終更新日: 2024/7/30 ]これまでのコラムで、口腔ケアの重要性や手技について述べられてきました。しかし、口腔ケアの実践の中で、困難だと感じる要因の一つに認知症などの症状による「口腔ケアへの拒否」があげられます。
口腔ケアにとどまらず、そうした拒否や不快感の現れといった精神・心理状態に対するケアとして、これまで様々なケアメソッドが提唱されています。今回は、そのうちの一つである「ユマニチュード(Humanitude®)」について、2回に分けてお話させていただきます。DOCTOR’S PROFILE
-
・東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯学専攻
老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 非常勤講師
・静岡県立大学短期大学部歯科衛生学科 講師・東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯学専攻
老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授(診療科長)まつばら ちあき
松原 ちあき先生
とはら はるか
戸原 玄先生
「ユマニチュードの基本の4つの柱」のうち、残り2つについても学んでいきましょう。
前回のおさらい
前回のコラム(ユマニチュードケアと口腔ケアへの活用方法(1))では、ユマニチュードの基本の4つの柱のうち「見る」「話す」について紹介しました。今回のコラムでは残りの2つの柱「触れる」「立つ」についてご説明いたします。
「触れる」
「広い面積で、ゆっくりと、優しく」触れる。これが、ユマニチュードで用いられる触れ方と言われます。「触れる」行為の中には、叩く、つかむ、といったネガティブな行為もあります。意図せずいきなり手くびを上から持つような動作に対しては、「つかまれた」と感じることもあるでしょう。また力づくで触れることもネガティブな行為を連想します。ユマニチュードでの「触れる」ことは、ケアを受ける人に優しさを伝える技術であると言われています。「広い面積でゆっくり、優しく」触れることを意識することが重要です。
口腔ケアの際も、ケアを行う前に肩などに触れながら「お会いできてうれしいです。」とポジティブな言葉をかけたり、治療中などに補助者の手が空いている場合は、身体に触れ、コミュニケーションをとることもスムーズな診療につながる一つの技術といえます。
「立つ」
「見る・話す・触れる」の3つの柱は、一連の動作として同時に行うことがよいとされます。相手の目を見て、ポジティブな言葉を用いて話しかけ、肩などを触れることで、「人間らしさ」を尊重したコミュニケーションがとれるでしょう。それに加えて「立つ」ことも重要な技法としています。
ユマニチュードを提唱した2人の専門家は体育学を専門とし「生きている者は動く。動くものは生きる」という思想のもと、病院や施設でのケアの中で「人間は死ぬまで立って生きることができる」ことを提唱しています。立つことで、人間の尊厳を認識することにつながり、多様な組織・器官によい影響を及ぼすと提唱し、その人の能力を生かすケアの実践を進めています。口腔ケアや歯科診療の際には、歯科用ユニットやベッド上などで行うことが多いため、実践には用いられないことが想定されますが、「人間らしくある」という視点で「立つ」ということも意識することは重要だと言えます。
ユマニチュードの技法の一部を今回はご紹介しましたが、その他にもたくさんの技法や考え方が提唱されています。「話す」ことなど普段何気なく実践されている方もたくさんおられると思います。改めて「人間らしさ」を尊重する思想に立ち返り、技術として身に着けていくことで、ケアを受けるすべての人が穏やかで快適な気持ちで過ごせることにつながると考えられます。
参考文献
・本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ、ユマニチュード入門、医学書院、2014
・Shirobe M et al., Association between Dementia Severity and Oral Hygiene Management Issues in Older Adults with Alzheimer’s Disease: A Cross-Sectional Study. I Int J Environ Res Public Health. 2023:20(5), 3841